◆君の指先は1万ボルト◆


ジョルトの両手には、高電圧スタンガンが内蔵されている。
勿論それはリペア用の電力供給にも活用されるが、戦場ではそれも立派な武器だ。
必要に迫られたとは言え、自身の両手を改造してまで備わった能力。
忌まわしき便利な手。
故に、ジョルトはその手で他人と接触する事を避けている。
彼の指導者でもあるラチェットは、そんなジョルトの心情を察していた。

だが、中には妙なところに察しがよく妙な自己完結で行動を起こす者もいる。

サイドスワイプと同じ部隊になった頃、社交辞令の挨拶でもある握手をそれとなく避けたジョルトに対して、サイドスワイプはそれから何かと接触を試みてきた。

それは遥か辺境の惑星「地球」に来てからも続いていた。
リペアルームの備品チェックをしているジョルトの指を、何時の間に側に来ていたのかサイドスワイプが掴んだ。
「あの…何か?」
「いや。何となく」

またか。と。表情には出さずに呆れる。
サイドスワイプはジョルトの手を取ったまま、じっと見つめている。
それから自身の口にその手を近づけた。



サイドスワイプの口の部分が、ジョルトの指に触れた瞬間。

バチッ!。
「おわぁっち!!」
その手に仕込まれている電流が放電されると、サイドスワイプは弾かれた様の手を離した。

「ちょ!。いきなり放電するなよ!俺がショートするだろ」
「不用意な行動に対しては、制御はしません。先程の一連の行動に対しての詳細な説明を求めます」
ジョルトの冷静な態度の影に、表情には動揺の色が浮かぶ。相手に悟られない程度であるが。
サイドスワイプは感電した自身の手を摩りながら、悪戯っぽく答えた。
「さっきネストの奴等が『テレビドラマ』ってヤツを見ててな。その時に男が女の手にこうする場面があってね。なんかカッコ良かったから真似してみた」
「それで?。何故その模倣の対象に自分を?」
「だから、何となく」
悪びれた様子もなく答えるサイドスワイプ。
「それなら君の師匠で試したらどうです?」
「そんな事したら、俺が殺される」
「アイアンハイドに?」
「いや、お前の師匠にな」
「成る程、無難な対象ということですか」
ますますもって呆れる。何となくでとっぴな行動に付き合わされる身にもなって欲しいものだとジョルトは肩を落とした。
「じゃあ今度はお前が俺にしてみる?」
「は?」
そういってサイドスワイプは手を差し出す。
これまたとっぴな行動。
目の前にあるサイドスワイプの手と、その顔を見比べる。
するとジョルトは、ずいっと彼に近寄るとその手を取る事も無く、その顔を両手でわしっと掴むとぐいっと自身の方へと近づけた。
カッツン。
「?!」
顔がぶつかる音。目の前には青い光を宿すセンサーアイ。
更に密着するように感じる。そして、長い。
硬直したままのサイドスワイプを充分に感じた後、ジョルトは静かに離れた。

「な…何!。今お前何した!?」
「こっちの方がカッコイイと思いますよ」
先程の行動に理由に対しての、ジョルトの提案。

そしてジョルトは何事もなかったように仕事を再開した。
呆気に取られていたサイドスワイプが、我に返ってまくし立てた。

「仕事の邪魔をするな、サイドスワイプ」
背後でどすの利いた声にビクっと反応すると、振り返ればリペアルームの入り口にラチェットが立っていた。
「アイアンハイドが呼んでいる。早く行かないと訓練が厳しくなるぞ」
「わーーーーー!師匠ーーーっ!」
ラチェットに言われるとサイドスワイプは自慢の足をフル回転させて出て行った。
その後姿を見送ったジョルトは、また仕事を始めた。
平静を装うジョルトの態度に、ラチェットは肩をすくめる。
気難しい部下を扱うのもなかなか疲れるものだと。
「勤務中の私的な情交は感心しないな」
「何のことですか?、ドクター」
「根が単純な奴だからな、あまり遊ぶと嫌われるぞ」
「その解釈は、是非サイドスワイプに対しても直接忠告をお願いします」
「部下の私情にまで深入りするほど、私も野暮じゃない」
「野暮を相手にするのはアイアンハイドだけで充分ですね、ドクター」
ジョルトはそう言って、ラチェットに向かってニコリを笑顔を見せる。
おや、と。ラチェットの方も面食らった表情になる。

若いモンの考えている事はイマイチよく分からん。
微妙な年頃なのだと。人間たちと交流する中でそんな話を聞いた事を思い出す。
ラチェットはそれから何も言わずに、自身の仕事に取り掛かった。

一方、アイアンハイドからの召集に遅刻したサイドスワイプは、双子と共にみっちりしごかれていた。
先程リペアルームでの一件で、ジョルトの電気ショックの感覚を残す指先を見つめながら、サイドスワイプが情けなくうな垂れている。
「師匠…。俺なんかスッゲーもやもやする…」
「真面目にやらんかぁ!!このクソガキ共がぁ!!」

ガッキーーーーン☆

そんな、平穏な地球でのひと時。


<おわり>


うちのジョルトは、どんどん変な人になってゆく…。
そしてサイドスワイプが順調にアホの子に育ってます。
押し倒されるのも時間の問題かとw。