◆正直(生)モノ◆ 秋も深く、季節の一区切りがつくこの頃。 シティの一画にハウンドの研究施設があった。 研究とは名ばかり、その実施設でやっていることは地球植物の生育観察。誰が言ったか「趣味の園芸」「ハウンド農園」と言われていた。 その中には植物生育に関わる昆虫や小動物も少なからず飼育していた。小動物の飼育にはビーチコンバーも一枚咬んでいる。 今日も施設に通うハウンドは、ある異変に気付くとシティ本部棟へと向かった。 「モモちゃーん。出ておいでー」 通気口に身体を半身まで潜り込ませ、懐中電灯を片手に呼びかけていた。 「モモちゃーん。ご飯はコッチだよー。…何処行ったのかなぁ?」 通路の真ん中に脚立を立て、天井の通気口を覗く姿は…傍から見れば邪魔だった。 Σげしっ! 「ぅおあっ!?。危ないなぁ、人が乗っているときに脚立を蹴るなよー」 「君の意見も正論だが、邪魔だから蹴りたくなるような場所に脚立を立てている方も悪い」 もっともな意見と悪びれも無い口調。脚立から降りたハウンドの前には腕を組み気難しい顔をした自分の上官が立っていた。 「落ちて怪我をしたら、労災は出るかな?」 「心配するな。そのまま退役して貰ってもかまわないぞ」 「そお言うのを゛パワーハラスメント゛って言うんだぞ、オーバードライブ」 仕方がないという風に肩をすくめるハウンドに対して、気難しい顔を崩さないオーバードライブ。 「あんな所に誰が居るというのだ?」 「モモちゃんなら入り込みそうだと思ってさ。狭くて暗いところを好む習性があ」 「野生動物は基地内へ持込禁止だっ」 ハウンドが事情を話す前にオーバードライブからのキツイ一言がぶつけられた。 しかしハウンドが突っ込み返すところはまた別のトコロだった。 「…よく解ったなー。モモンガのモモちゃんだって」 「モモンガだからモモちゃんだろう、安直この上ないネーミングセンスだな」 「動物嫌いなのに動物の習性には詳しいんだよな…」 「誰のせいだと思っている」 ボソッと言った一言も聞き逃さない、真面目ゆえに融通の聞かないオーバードライブ。 「君は研究施設を動物園にしたいのか。もう経費は出さんぞ、維持費も安くは無いんだがなハウンド」 「そお言うなって。モモちゃんは怪我をして弱っていたところを保護しただけなんだ。元気になったら自然に帰すよ。その間だけでもイイだろう?」 「動物好きの君の事だ。その内愛着が沸き手放せなくなるのだろう」 「愛着は沸くけど、手放す事に未練は無いよ。それが自然だからさ。それともオーバードライブは目の前で弱っている命を見殺しにしろって言うのかい?」 「…ソレとコレとは主題の視点が違う」 そんな彼の性格も今では慣れたもので、ハウンドも特に気に触るわけでもない。 オーバードライブの指摘している意図は決して個人的な「動物嫌い」からではない事を、ハウンドは判っていた。 シティ内には厳重なセキュリティ装備が常設されている。迂闊に紛れ込み装備が作動すれば命を落とす。それが小動物なら尚の事。 むやみに命が奪われるのはオーバードライブとて本意ではないのだ。 暫くして諦めたのか、オーバードライブはため息をついて厳しい表情を崩した。 「セキュリティ担当に見つかる前に保護してくれ。必要ならば探査サーチ機能の使用も許可する」 「ありがとう、オーバードライブ」 「私はただ、事を荒立たせたくないだけだ」 気難しく、真面目ゆえに融通の聞かないオーバードライブ。 その影には心優しい一面も隠し持っていた。 通路に立てっぱなしの脚立を撤去しておくようにと言いつけたオーバードライブが、ハウンドに背を向け去って行こうとした、その時。 ブハっ!=з ハウンドは見てしまった。 オーバードライブの背中に、ぴとっと張り付いているモモちゃんの姿を。 しっかりと張り付いているモモンガの姿と、その事に微塵も気付いていないオーバードライブの天然ぶり。 『どっちも、萌えるっ!』 と、心の中で叫んだハウンドはそのまま黙って見送ってしまった。 そして数分後、基地内にオーバードライブの悲鳴が響き渡った。 <了> 動物は正直な生き物です。 相手が善人か悪人か本能でかぎ分けて、どうやらオバドラさんはモモちゃんに好かれてしまったようです。 動物嫌いなのに動物に好かれるっ体質って、ハウンドにとってはオイシイ。 うちのハウンドさんは本当にただのヘンな人ですねv。でもソコがイイ(笑)。 |