15.コード<前編>


スモークスクリーンはBT体へと転生した。
彼が生まれてから早数日。蘇生時のトラブルも無く、無事に目覚める事が出来た事にBT開発に携わる全てのスタッフが安堵した。BT転生第1号機の誕生が、後の戦士達に大きな功績をもたらす事になる。
しかし其処に至るまでの「真実」を多く語る者は少なかった。

目に鮮やかな青いボディ。そこから生える様に沢山の接続コードが延びている。その先には物々しい機械の数々。毎日同じ様な実験の繰り返しにスモークスクリーンは少々退屈気味だった。繋がれたコードがズルズルと引き摺られる感覚がどうも好きになれない。地球人の研究スタッフによって次の実験用にとまた新しいコードに交換する間、スモークスクリーンはある思いを抱いていた。目覚めてから、まだ確かめていない事がある。
それは大切な親友の事。
目覚めてから周りに居るスタッフに何度か聞いたが、皆一様に言葉を濁す、それが何を意味しているのか、彼にはまだ分からなかった。唯一知っているだろう人物は、彼が目覚めた日以来一度も姿を見せていない。スモークスクリーンの不安は募る一方だった。

繋がっていた接続コードを全て外し終わったその時、実験室のドアが開いた。
「プロ−ル」
「調子はどうだ?、スモークスクリーン」
「お蔭様でね、見ての通り毎日同じ事の繰り返しで退屈してるさ」
「まあそう言うな、コレも君の為だ」
「分かっちゃいるけどね、コレだけコードを付けられちゃ、まるで地球にいるクラゲみたいだな」
彼のおどけた調子に周りに居るスタッフも苦笑いを見せた。一方プロ−ルは直ぐに神妙な表情へと変る。その変化をスモークスクリーンは見逃さなかった。
「プロール…、わざわざ此処に来るって事は、俺に用があるんだな?」
「ああ、君に話がある」
プロ−ルはスタッフにその事を話し、スモークスクリーンと共に実験室を後にした。
長い廊下、先を歩くプロールの後姿は昔のまま、地球に来た時のままの懐かしい姿。そのボディの表面には僅かだが傷が見えている。自分たちが眠っている間、彼がどれだけ苦労してきたか、小さな傷の数だけ物語っていた。
二人は黙ったまま長い廊下を歩いた。

「ここだ」
プロ−ルが立ち止まった場所、そこは別の実験室の入り口だった。プロ−ルが入室パスワードを入力するとドアは静かに開く。その中へ入るように促されたスモークスクリーンは、此処が何の為の部屋なのか大方予想はしていた。
彼が自分を連れて行く場所、そこには、きっとアイツが居る…。
部屋の中に入ると薄暗かった部屋に照明が灯る。
ガラスで仕切られた壁の向こう側、その灯かりの元に現れたのが、銀色をしたスモークスクリーンと同型ボディのBT体だった。調整ベッドに横たえられ、おびただしい数の接続コードに繋がれたそのBT体のセンサーアイに、輝きは無い。
「これは…」
自分と同型の素体が既に用意されていると言う事は、次に目覚めるのは…。
スモークスクリーンの心の中に淡い期待が沸き上がった。
「なるほど、次はアイツがBT体に転生できるって訳か」
「否…違う」
スモークスクリーンの期待は、プロ−ルの否定の一言で打ち砕かれた。では何故此処に連れて来たのか?、プロ−ルの表情が更に深刻な事実を告げようとしていた。そして沈黙の後、プロ−ルが重々しく口を開く。
「此処に居るのは…ストリークだ」
「…どお言う事だ?」
「ストリークのパーソナルコンポーネントは、既にこのBT体への移植が完了している…。今、目の前で眠っているのが…ストリークだ」
「何…だって…」
スモークスクリーンは再び目の前に横たわる銀色のBT体を見た。
ストリークはBT体へ転生していた、自分よりも先に。しかし蘇生に成功した第1号機は自分のはず。
ではストリークが此処で眠っているのは何故?。
困惑するスモークスクリーンの胸中を察し、プロールは遂に事実を告げた。

「ストリークの蘇生は、失敗した。再蘇生は、まだ決まっていない」

あれ程躊躇っていた辛い事実は、思いのほか簡単に口から言葉となった。

そして再び、プロールは沈黙する。
一瞬の沈黙が、これ程重く辛いことは無い。
プロールはこの後に、スモークスクリーンから浴びせられる非難の言葉を黙って受け止める覚悟でいた。その為に彼を此処に連れて来た。

プロール自身の口から、真実を告げなければならない「義務」がある。
そしてスモークスクリーンには、事実を知る「権利」がある。

それは、二人だけの「契約」。

「プロール、覚えているか?。俺達の契約を」
「ああ…」
「俺が常にストリークを守り、プロールが『環境』を確保する…。戦略家として…どんな権限を使ってでも、俺がストリークの側に就くことが出来る環境を作る」
「ああ、覚えている…」

それは、古い記憶。それぞれの運命が大きく動き始めた、あの戦争の始まり。
故郷を失い、身も心も傷ついたストリークを守る為に。
二人が秘密裏に交わした、それが「契約」。

「今回ばかりは、果たす事が出来なかった…。俺は、ストリークを守れなかった」
「そればかりじゃない。俺が…俺自身が、ストリークを傷付けてしまった」

事実を告げられ、現実を知った事で何かを悟ったのか、眠るストリークを黙って見つめていたスモークスクリーンの考えは、一つの結論に達した。

「実験台に…したんだな、ストリークを」

スモークスクリーンの言葉に、プロールは反論を示さなかった。
それが事実であり、現実なのだから。

実験台。失敗。再蘇生。

ストリークが。

ストリークは。

ストリークを。

---ケイヤクヲヤブッタ、オマエノセイデ---

スモークスクリーンの心の中で「何か」が「切れ」た。

次の瞬間、部屋の中に鈍く激しい衝撃音が響き渡った。

「実験台にしただと!、プロール!お前には分かっていたはずだ、コレがどれだけ危険な事か!」
スモークスクリーンの怒号と共に、振り上げられた拳がプロールを殴り飛ばす。
「分かっていてアイツを選んだって言うのかっ!!」
金属同士が激しくぶつかり合う音と、スモークスクリーンの叫びが、交互に実験室の中に響き渡った。
「何故だ!、何故ストリークを選んだ!。何故、俺を選ばなかった!」
プロールは沈黙のまま、抵抗もせずに、スモークスクリーンの叫びと拳を、その身にただ受け続けた。
BT体のパワーは、オリジナル体を超える。その衝撃に晒されながらも、プロールは抵抗しようとはしない。
「どんな手段を使ってでも、俺がアイツの傍に居られるようにする!、それがお前の役目だったはずだっ!」
遂には殴られた反動で壁へと打ち付けられたプロールは、そのまま背を垂れるように床へと崩れ落ちた。それでも、スモークスクリーンの拳は怒りを湛えたまま、プロールを襲おうとしていた。
「答えろ!プロール!!」

「プロール!」
その時、何者かが実験室に飛び込んで来た。
「止せ!スモークスクリーン!!」
制止の叫び声と共に、スモークスクリーンが振り上げた腕にしがみ付く様に止めに入ったのは、マイスターだった。
「落ち着け!スモークスクリーン!。君の蘇生は未だ不完全…」
「うるさい!、離せ!」
「うあっ!」
スモークスクリーンが身体を大きく捻って、腕にしがみ付いているマイスターを振り払う。オリジナル体のマイスターではBT体のパワーに敵わなかった。
「ぁう…っ、プ…プロール…っ」
振り払われた反動で、マイスターが投げ飛ばされた。床に叩き付けられた衝撃に、一瞬表情を歪める。
しかし直に体勢を立て直すと、既にスモークスクリーンがプロールの頭部を鷲掴みにし、そのまま高く持ち上げていた。
プロールは今まさに、握り潰されようとしている。
「止めろ――っ!!」

マイスターの悲痛な叫びが、無機質な部屋に響き渡った―――。


<To be continued…>


2007.10/22UP



久し振りのBTストーリー捏造小説です。お題自体お久し振りです。お題消化コンプリまで折り返し。頑張れ自分。

まずはテキストファイル冒頭の「BT世界自分妄想設定解説」ページを御覧下さい。御覧頂けないと、内容がサッパリです…。本当に読み手に優しくないサイトで申し訳ないです。

今回は前・後編でお送りします。おそらく中途半端に長くなるんで…、つかまだ台詞が決まってない…。
文字を打ち込んでいて、ノリと萌えとニュアンスで書いています。
ノリと萌えで書いていたら、プロールをボコるスモスクが書いてて楽しかった事を白状しておきます(酷っ)。

何時かは触れようと練っていた、プロールとスモークスクリーンの確執、と言うか利害一致の上での裏取引。
そして、ストリークの蘇生失敗の実態。マイスターの苦悩。

恐らく、書き切れない妄想で頭がみっちりみっちり。
気分をブルーにする為に、BGMは「ひぐらし解」OPの「奈落の花」エンドレス。

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