君と居ると笑わずにいられない



オーバードライブは笑顔を作る事が苦手でした。
彼が笑顔を作るのは、対面する相手への必要最低限の社交辞令な笑顔でした。

それは、長い戦いの中で幾つもの戦場を渡り歩くうちに、自然と身に付いてしまったものでした。激しさを増す戦争の中では気を緩める暇もありません、ましてや自分は一部隊の指揮官であり、時として大勢の命を預かる身です。笑ってなどいられません。
自分に厳しくプライドの高いオーバードライブにとって、戦時下において「笑う」と言う事は不謹慎な事だったのです。

地球にやって来て、不測の事態からこの地に留まらざる得なくなったオーバードライブは、この地球基地に就いている戦士達に馴染む事が出来ないでいました。
彼等には常に笑顔がありました。
どんなに辛い状況でも決して笑顔が絶えず、それが仲間達の強い結束を作っていました。
そんな彼らに、オーバードライブは笑顔で応える事が出来ませんでした。

彼は地球での戦いで大切な部下達を犠牲にしてしまいました。命懸けで自分を救ってくれた部下達の為に、何が何でも戦わなくてはならない、自分に厳しかった彼は、その強い思いから他の戦士達にも厳しく接するようになりました。

しかし、オーバードライブの考え方に反発する戦士達との隔たりが、組織の中で孤立して行く自分を感じさせたのです。

悩みや苦しみも胸の内に抱えたまま、オーバードライブの戦いの日々が過ぎてゆきました。


しばらくして気が付くと、オーバードライブの隣には常に笑顔で応えてくれる存在が居たのです。
それがハウンドでした。
彼は地球に馴染めないオーバードライブに色々な事を教えてくれました。地球の自然の事や、動物の事。今までの戦いの事や仲間達の事も、彼はごく自然に答えてくれたのです。
ハウンドは、仲間達と打ち解けようとしないオーバードライブを責めたり咎めたりする事も無く、知らなかった事は仕方が無い事と言って赦してくれました。
ある時、ほんの些細な事から自分の最大の弱点である「生き物嫌い」を、ハウンドに知られてしまいました。動植物が好きなハウンドにとってそれは理解し難い欠点でした。
それが切欠で、二人の仲が親密になって行ったのです。ハウンドは今まで以上にオーバードライブに地球の動植物の事を教え、生き物嫌いを治す手助けになればと親身になってくれました。

そのときの彼は、いつも笑顔でした。それは決して他人を蔑む笑みではありません、他人を安心させる優しい笑みでした。
オーバードライブは、彼の笑顔に安心させられる自分に気付いたのです。それと同時に、自分が如何に周りの仲間達を不安にさせていたかに気付いたのでした。

ハウンドと共に過ごす時間が増えるにつれ、オーバードライブは次第に仲間の中に溶け込んで行きました。

「オーバードライブ!」
いつもの様にハウンドが駆け寄ってきます。そんな時に彼の手に持っているものは決まってアル物でした。
「またか…」
「そんな露骨に嫌そうな顔をするなって」
そう言ってオーバードライブに手渡したアル物は、生き物の模型でした。
「見てくれ!、コレでこの種類の模型はコンプリートしたんだぜ!」
「…その間にダブった模型は、何人の仲間に押し付けられたんだろうな…」
「そう言うなって、最後の一つを見つけるのに苦労したよ」
手渡された模型は、今まで渡された物と同じ様にとても奇妙な形をした生き物でした。苦手とかそお言う事を抜きに誰でも嫌な顔をするだろうと、オーバードライブは内心思いました。
そんな事はお構いなしに、ハウンドはこの生き物についての説明を始めました。
「それは¨オオグチボヤ¨って言って、深海に居る珍しい生き物なんだ。名前の通り口を開けている形をしてるんだ」
その模型は、まるで笑っているような形をしていました。
「何故大きな口をしていると思う?。それは深海は餌の乏しい世界なんだ、だから大きく口を開く事によって餌を取る効率を上げる為なのさ。そんな面白い形でも、ちゃんと意味があるんだよ」

笑う事も、意味の有る事。
それは、オーバードライブにとってハウンドの事のようでした。

オーバードライブは自然と笑みが浮かびました。
「ハウンド、この模型は私が貰っても良いか?」
「気に入ったんだ」
「ああ、コレは君に似ている」
「何だよそれ!?、俺ってそんな顔をしてるのか?」
思いも寄らない答えに、ハウンドも少し驚きました。そんな彼にオーバードライブは笑顔で言いました。
「だから気に入ったんだ」

とても自然に笑顔がありました。それはハウンドを安心させる笑顔でした。



<END>
2006.10/11UP



こちらのお題では本当に久し振りのネタで御座います。
そしてハウンド×オバドラもお久し振りで御座います、一部で大ウケしている世界でたった一つのカップリング。今日も元気に茨道を掻き分けて歩んでおります(イタタタ)。

自分妄想設定のオバドラさんの「へんないきもの嫌い」。このネタによって二人の仲が急接近しました。其処まで行く切欠を整理しましたらこうなりました。オリジナルのオバドラさんの設定が在って無い様なものなのが、ココまで自分妄想設定が飛躍する要因だったのではないかと責任転換してみる。
このカップリング=某自然ドキュメンタリー番組。ハウンドさんのお蔭で無駄にNHKの視聴率に貢献している今日この頃です。

ココで出た「オオグチボヤ」、未だに手にしておりません。もう店頭でも置いて無いこのシリーズ…。またオタクな専門店で探すか…。

オバドラさんがバイザーを付けていないのはハウンドの前だからです。彼の前だけは素顔を見せるようになったオバドラさんなのでした。


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