◆10.素顔◆※擬人化設定でご想像下さい※ 深夜を過ぎ、戦闘の無かったこの日の基地内は静かな物だった。仲間はそれぞれ割り当てられた部屋で休んでいるか、起きている者と言えば交代で警報システムの監視をしている数名くらい。 広大なシティには、人の声が届かない場所もある。 その場所、仲間が寛げる場所として設えたラウンジには、深夜だと言うのに音楽がもれていた。 ストリークは、静か過ぎるとかえって落ち着かず眠れない自分の癖に、いい加減なれたとは言えやはり憂鬱になるもの。気を紛らわす為にこうして基地内を歩き回るのもいつもの事。だがその夜、いつもとは違う状況に遭遇した。 音楽がもれるラウンジに人の気配を察したストリークは、話し相手を見つけたとはかりに嬉々としてそのドアを開けた。だがそこに灯りは無かった。 「何だ?、誰もいないのか…あ?」 開けたドアから差し込んだ灯りにうっすらと照らされた部屋の中、ソファに横になっている人影を見つけた。眠っているのかストリークの事には気付かず微動だにしない。ストリークは注意深くそっと近付き、眠っている相手の顔を覗き込んだ。 「マイスター…副官?」 顔を覗き込もうにも、大き目のバイザーによってその表情の半分は隠されてしまっている。なんの反応も無い事は眠っているんだろうとストリークは確信した。 周りを見回せば、側にあるテーブルの上や床には雑誌や資料やらが散乱している。 ―また調べモノか。まったく…気が散りやすいと言うか、散漫と言うか…、見かけによらずこう言うところがズボラなんだから― 溜息を付きつつ散らばっているテーブルの上や床を簡単に片付け、マイスターの手元に落ちていたステレオのリモコンを取り、掛けっ放しだった音楽を止めた。 途端に静まり返る部屋の中。 ストリークは、そぐにその場から立ち去る事が出来なかった。 薄暗い、音の無い部屋。眠るマイスターの息遣いがやけに大きく聞える。 ストリークはソファーの側に腰を下ろし、マイスターの寝顔を見つめていた。未だに人の気配に気付かず眠り続ける事から、その深さが伺える。 ―疲れてるんだな…。あまり無理しないで下さいよ、副官― 恐る恐る手を伸ばし、マイスターの髪に触れて優しくなでおろした。それを何度か繰り返す、まるで愛撫するように愛しみをこめて…。 艶やかでそれでいて少し癖のある黒髪を撫でながら、その身体ごと両腕で抱き締めたい衝動に駆られる。勿論そんな事は出来るはずも無い。目が覚めてしまったら、今このささやか幸せが終ってしまう。 ささやかな…。自分に許されているのは、人知れず想いを抱えるだけ。 ―もう少しだけ、こうさせていて下さい…。今だけ、貴方を想う事を許してください…マイスター…― 愛しくて、切なくて、それでも愛しくて…。何を引き換えにしも、どんな犠牲を出そうとも、ただ貴方だけを奪えてしまえたら。例えそれが間違いだと言われようと…。 そう考えないと言えば、それは嘘になる。ただそれを行動に示す事が出来ないだけ。 ―俺は、こんな所でも勇気が出ない臆病者だ―。 寧ろ卑怯者かもしれない。気付かれない所で、勝手に想いをぶつけている。 後ろめたさに苛まれつつ、マイスターの髪にキスをした。感謝と謝罪の意味をこめて…。 漸くその場から離れる決心が付いたストリークは、ふと気になった事が有った。 ―寝る時ぐらいは外せばいいのに― それは些細な好奇心だった。 眠っているその人を前にして、ストリークは何気に手を伸ばした。マイスターの顔を隠しているバイザーに手を添えそっと外す。 現れたのは、やわらかく閉じられた瞳と、穏やかな素顔。 ―綺麗…だな― そう言えば、この人の素顔を見たのは何時だっただろうか?。記憶を辿れば…、辿らなくては成らないほど昔の事か。ふと苦笑いが零れた。 こうして素顔さえ滅多に見せてはくれない人。それでも愛しい人。 初めて出逢った日から、自分を救ってくれたあの日から、ずっと想い続けてきた。想う事で、自分は生きる勇気が持てた。 しかしその想いも、告げる前に報われない物だと気付いてしまった。 ―諦めるとか、終わりにするとか…そお言う事じゃないんだ、誰かを想うって事は― そう気持の整理がつくまで、随分時間が掛かった。今はただ、愛する人の幸せを願いたい。 外したバイザーをテーブルの上に重ねた資料のそばに置いた。起きた時に気付くだろうか?、誰かが此処に居た事に。 ―その時貴方は、俺の事を選択肢にも入れないでしょうね― 自虐的な考えに、また苦笑い。それでもいい、何時か笑って話せる時が来る、例え今が辛くとも…。 起こさぬように静かに立ち去ろうとした時、何かが服の裾に引っ掛かった。見ると其処にはマイスターの指が…。 ―いつの間に…― 引き止められているのか?、否そんな筈は無い、きっと寝惚けているだけだ。彼の瞳はまだ閉じられたまま。 掴まる指を外そうと触れた時、不意に力が込められた。それは明らかに何かの意思表示だった。 ―マイスター…副官― きっと夢を見ているのだろう。その夢の中で、何かを求めている。自分ではない、誰かを…。 複雑想いに、胸が痛んだ。 マイスターの手を取り、求められるままに優しく握り返した。するとそれに応える様に、マイスターも握り返してきた。 胸に込み上げて来る、愛しさ。しかし、零れるのは、痛みへの涙。 「――…――……」 眠りの中、僅かに開いた唇から紡がれたのは、自分の名前ではなかった。 ―分かっている…貴方が誰を想っているか。夢の中で、誰を求めているのか…、俺には分かるから…― きっと夢の中の相手は、彼が望むような応えをしていないだろう。ストリークは握り締めた手を離さず、そして耳元へ優しく囁いた。 「心配要らない、俺はここに居る。ずっと、君の側に居るよ…、マイスター…」 身代わりでもいい。夢の中で、少しでも求め得る事が出来るなら、自分は喜んで道化を演じよう。愛しい貴方のために。 自分ではない名前を紡ぐ、愛しい人の唇に、そっと自分の唇を寄せる。触れるだけの、ささやかなキス。 ゆっくりと、繋がれた手から力が抜けて行く。そのまま逆らう事無く、ストリークは手を開放した。 再び深い眠りに落ちたマイスターの寝顔を見て、夢の中で望む応えが得られたのだと思った。穏やかな寝顔に安心して、ストリークはマイスターの側を離れ、そのまま部屋を出た。 ストリークの足は、自然に外へと向う。ただ、早くこの場所から遠ざかりたかった。 初めて触れた唇の感触が、胸の痛みを更に大きくしている。 きっと、これが最後だと。 自分にもっと勇気があれば、こんな痛みに泣く事も無いだろう。 「マイスター副官…俺は、貴方の幸せを願っています。でも…それじゃ俺の幸せは、誰が願ってくれるんですか…?」 余りにも自分勝手で哀れな考えに、胸の痛みは強くなるばかりだった。 今夜も、眠れない夜に憂鬱になるだろう。ストリークは一人になれる場所を求め、長い通路を歩いて行った。 <END> 2006.3/10UP |
まず最初に謝っておきます、色々スミマセンm( ̄ι ̄;)m(早速謝罪か自分)。 TOPカウンター6666HITでリクエストしてくださった、白黒シャツ様に捧げます。お題は「眠る副官を前に悶々とする不憫な彼」。 頂いたお題通りになっているか…、ぇーと好みが分かれる所ですが、うちの設定ではこれが精一杯です。不憫な彼が報われなさ過ぎて痛い痛い。描いてる自分が泣きそうになりました(アホだな自分)。 ただ、眠る副官にキスするシーンは描きたかった。其処に持ってく為のシュチュエーションの前フリが長いのが自分の文章構成のマズイ所でしょうか?スミマセン、色々へタレた管理人で…。 副官が夢の中で求めた相手…言わずもがな鈍い彼ことプロールです。そろそろこっちの二人も何か進展させないと、副官も不憫になってくる…(本人にはそんな自覚は無いでしょうが)。 舞台をあえてBTとしたのは、その頃には精神的に3人が相当に詰まった関係になっているだろうと言う事で、この後登場のご子息でカタが付くと言う事です。 そうでないと、副官がここまで弱ってくれません(笑…えんな、それもまたイタイ)。 こんなんで宜しかったらどうぞお納めください白黒シャツ様。 リクエストして頂き有難う御座いました。 |