◆6.「だからやめとけ」って言っただろ◆ サイバトロン基地の周辺には、多くの自然に包まれている。 それは基地が戦場となった時、周辺の人間の都市への被害を防ぐ為。そしてもう一つ理由がある事を知る者は実は少ない。 山間部の麓には木々が茂り、面積は大きくは無いが湖が有った。 その湖畔を歩く、二つの人影。もっとも人と言っても人間の輪郭とは異なる影。快晴の元降り注ぐ柔らかな日の光を反射する、赤と銀色の影。 「Zoom−Zoom、あまり遠くへ行くんじゃないぞ」 赤い身体は一度立ち止まり振り返ると、うん、と頷きまた湖畔沿いに歩いて行く。その後姿を優しい眼差しで見守るストリーク。 基地周辺は有事に備えて、地球人の立ち入りが禁止されている。その結果、ここはサイバトロンのトランスフォーマー達にとって唯一寛げる場所となっていた。それがもう一つの理由。 生まれてまだ日の浅いZoom−Zoomは、見る物聞く物の殆どに興味を示し、そして学習して行く。その様子はまるで人間の子供の成長のようだと、Zoom−Zoomのボディ作成を手掛けた地球の科学者が言った事を思い出す。 子供。その概念はトランスフォーマーにとって無きに等しい。 元々親と言う概念も無いのだ。パーソナルコンポーネントの共有が可能な、例えばランボルとサンストリーカーの様な<同一構造>の場合お互いを兄弟と認識する以外、およそ家族と言う概念は持たない。 マイスターも例外ではないだろう。しかし彼は地球での習慣や社会構造に興味を持ち、尚且つその情報収集力は他の追随をゆるさない。ゆえに地球人の子々孫々と繋がる家族と言う概念を容易に理解し、それを自分自身で実行してしまったのだ。 誰も反対しなかったのだろうか?。今更ではあるがそんな疑問も無くは無い。 「子供を預けっぱなしにするって言うのも、親としてどうなんだろうねぇ…」 少しなはれた場所で遊ぶZoom−Zoomを見守りながら、此処に居ない親に向かって言ってみる。 その姿も、不意にする仕草も、マイスターそのもの。ただ身体の色が違うだけ。それがストリークにとっては酷な事だった。 まるでマイスターの身代わりを押し付けられたような、自分の想いを遠回しに拒絶された事を感じたあの絶望感。 報われる事は無い、だから止めておけ。心の中で何度もそう言いきかせていた想いが、こんな形で断ち切られるとは思いもしなかった。 絶望が憎悪となり、理不尽にもZoom−Zoomに向けられた、所詮はマイスターの模造品だ。ストリークは彼の存在を拒絶してしまう。 『なんであんなモノを造ったんですか?』 『あんなモノ?』 『副官が造ったあのレプリカの事ですよ。あんな偽者を俺に押し付けるなんて悪趣味にも程がありますよ』 『確かに、あの子は私の基本プログラムをコピーしている。だが私ではないのだよ』 『あんなそっくりに造っておいて、コピーじゃないって言うんですか?』 『……ストリーク、君はZoom−Zoomが嫌いなのかい?、それとも私が嫌いなのかな?』 『いや…その、嫌いって訳じゃ……』 『あの子は、もう私のコピーじゃないよ。これから成長してZoom−Zoomという名前の一人のトランスフォーマーになってゆくんだ。そうなる為に、君に預けたんだよ。いつまでも私の手元に置いていては、結局私以外の存在にはなれないからね』 『……預けるなら、どうして俺を選んだんですか?』 『君以外にも一通り仲間に預けてみた、その結果だよ。Zoom−Zoomが自分で選んだんだよ、君がいいって』 『え…?』 『インスピレーションかな?、その時に実感した。この子はもう、私とは別の存在に成長を始めたんだってね。…ねぇストリーク』 『何ですか?』 『私は何を言われても構わない。だけどあの子は…Zoom−Zoomの存在は否定しないで欲しい。私とは別の存在なのだから…』 あの時のマイスターの表情を、きっとこの先忘れる事は無いだろう。優しく慈愛に満ちた表情、それが親としての心の表れだったと、ストリークは今にして思う。 そして気づいた、自分が間違っていた事を。 なんの疑いも無く、ただ純粋に自分を慕う存在。次第に、Zoom−Zoomの中にマイスターとは違う所を探すようになっていた。喩えデータをコピーした子供だとしても、今はもうZoom−Zoomという一人の存在なのだと。そう受け入れる事が出来た時、初めて愛しさが芽生えた。 想いがこんな形で成就されるとは、思いもしなかった。 かつての自分に言ってやりたい。止めなくて良かったんだ、報われる形は一つじゃないと。 「Zoom−Zoom、おいで」 愛しいその名を呼び、手を差し出す。呼ぶ声に振り返り素直に歩み寄ってくる。 「日が暮れる前にシティに戻ろう、今日はマイスター副官が任務から帰ってくるはずだから、二人で出迎えよう」 Zoom−Zoomはしばし考え、それから笑顔で頷くと、差し出されたストリークの手にごく自然に掴まった。 手を繋いで歩く二人に、傾きかけた日の光が包む。 マイスターが戻ってきたら、彼がいなかった間にあった出来事を話して。そして一言言っておこう。 ーこのまま、俺がこの子を貰いますよ。ー マイスターはどんな顔をするだろうか?。そう考えると少し愉快だった。 ーだから俺に預けるのは止めといた方がいいって言ったでしょう?。もう誰にも渡しませんよ、俺の大事な…−。 大事な、大事な、たった一人の愛しい存在。 <END> 2006.3/7UP |
BT小説も、すっかり自分妄想設定で勝手に展開しております。 ストリーク×ご子息がさらに飛躍して、妄想が暴走状態ですハイ、誰も止めないんですか?そうですかアリガトウ。 副官そっくりのご子息。そっくりって所に何故か引っ掛かるモノを感じてしまいました。不憫な彼のもっとも不憫な象徴として(本当ゴメンナサイ)。 ただそこからどうやって成就させかを考えたらこうなりました。 まだまだ詰めが甘いようですハイ。また別な方法で詰め直すと思われます。だって奥が深いから。 |
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