◆それぞれの冬物語(TFお題「19.作る」より)◆ ここは某国某地域に建設されたサイバトロン地球本部。通称サイバトロンシティ。 この星を巻き込んだトランスフォーマーの戦争も、早二十年を過ぎ、新しく生まれ変わった戦士たちも次第にメンバーが増えていく。 彼等の活躍によって、この星の平和は守られている……筈である。 その日、シティ周辺は白い景色一色に包まれていた。 太陽の光を浴びて白く覆われた表面がキラキラと反射する。その情景に真っ先に歓喜したのは「奇麗なもの至上主義」のトラックス。 「綺麗だぁ…、やっぱり地球に居て良かった!」 「おいトラックス、初心を忘れるなよ。何の為に俺たちが此処に居るんだよ」 彼の後ろから呆れたように声を掛けたランボルの手には、トランスフォーマーサイズの「スコップ」が握られている。 「忘れてないさ、デストロンから地球を守るためだろ?」 そこへ、後からやって来たマイスターが手に持っていたスコップの一本をトラックスに手渡した。 「忘れていないなら結構。だが今はデストロンよりこの雪からシティを守らないとな」 「了解!」 その後からも続々と仲間が外へやって来る。 降り積もった雪がシティ周辺の道路まで埋め尽くしている今、彼等の任務は「通路の確保」としての雪掻きだった。 始めの内は黙々と作業をしていた彼らも、生来の和気藹々振りが徐々に表に出始め、その率先を切ったのが他ならぬ副官…。 「よいしょっと。今年は大きい物が作れるぞv」 「副官!、雪掻きした通路の真ん中に雪だるまを作らないで下さい!」 「いやぁ〜せっかく集めた雪が勿体無くてね。ストリーク、もう少しこっちに雪を集めておいてくれないか?」 「だから!他所で作ってくださいよ!。後で運びますから!」 二人のやり取りを見ながら、プロ―ルは感心したようにポツリと零した。 「ストリーク…、マイスターが雪だるまを作る事には反対しないんだな…」 「まったく…、何故にこんな地味な作業を私まで…」 「仕方ないだろう、人間だけじゃコレだけの雪を除去するのは手間が掛かる。こう言うことも地球人との「共生」の一環だよ」 オーバードライブの真面目故につい口をついて出た不満に、地球生活では先輩であるハウンドは半ば悟りきったように言った。 「こんな貴重な経験は、セイバートロン星に居たら出来なかった事だからな」 「別にしたいとも思わんが…、ハウンド、君は随分と楽しそうだな。私は君の気が知れんよ」 「その内分かるさ君にも。地球は星そのものが生きている神秘の生命体だ」 「では、この降り積もった結晶体も生命体の営みと言う事か」 「生きているって素晴らしい。地球の唱の一節じゃないけどさ、俺はこの星でそれを始めて実感できたよ」 金属の大地、季節のない環境。その中で続けられてきた不毛の戦争。 生きる事とは戦う事。戦わずして生きてはいけない。そんな日々の中で失われていた「命」の意味。 「戦う為に生まれたのか、生まれたから戦うのか…。セイバートロン星にとって俺達トランスフォーマーの存在意義って何なのか…、その答えがこの地球で見つかるかもしれないなぁ…、なんて、真面目に思ったりもする訳さ」 ハウンドは自分で言った台詞が恥ずかしかったのか、最後は業とおどけて見せた。 そんなハウンドの言葉を真剣に受け止め、オーバードライブは真剣に答えた。 「存在意義とは、自分自身の価値観だけで決められる物ではない。存在する世界が有ってこそ初めてその意義を問う事が出来る。我々はまず、その世界を見出さなくてはならないのではないか?」 「ふ〜ん、それが君の持論かい?」 「幾つもの次元を渡り歩くと言う事は、それだけ価値観の相違と言うものを知る事でもある」 「すると君は、この世界での価値観をまだ見出していないと?」 「それが分かれば、こんな作業は苦にしてないだろうな」 「ははは…まったくだ」 至極真面目な討論ではあるが、傍から見れば「雪掻きをサボって立ち話」にしか見えないのが、シュチュエーション選択ミスである。 「そこの二人!、サボってないで手を動かす!。まだまだ運ぶ雪が沢山あるんだから!」 ハウンドとオーバードライブが背後から飛んできた声に振り返って見れば、スモークスクリーンがせっせと雪を運んでいた。 しかし、スモークスクリーンが4人…。 「……アレが噂のGTシステムか…、実戦投入された所を始めてみた…」 「これを実戦と言うのか?。せっかくの新システムを…無駄遣いして…」 「まぁ、平和的有効活用って事で、良いんじゃないか?」 スモークスクリーンの4人は、それは見事なチームワークで雪を運んでいった…。 シティ周辺の通路も一通り確保できて来た頃、何故か暗黙の了解の内に一箇所に集められた雪で雪だるまが作られ始めていた。 中でも一際大きな物を造っていたのは、新しい遊びを覚えた子供の様に一生懸命なグリムロックだった。 「オレ、グリムロック、一番大きな物造る!」 「あ、そうだ。モノを作ると言ったら大事な人材を忘れていたよ。グリムロック!」 雪玉を転がしていたマイスターは、ふと思いつき、遊びに夢中だったグルムロックを呼んだ。 「何だマイスター。オレ呼んだか?」 「ホイルジャックを呼んで来てくれないか?。きっと自分のラボに篭りっきりで、外の事なんて全く気が付いていないだろうからね」 「オレ、グリムロック、忙しい。マイスター、自分で行け」 しかし、遊びに夢中なグルムロックはあっさりと拒否する。それでもマイスターは彼に頼んだ。 「生憎、私も忙しいんでね。グリムロック、ホイルジャックが居れば、もっと大きくてカッコイイ雪だるまが沢山作れるんじゃないかな?、彼はモノ造りの天才だからね」 ――ピクンッ―― 大きくて・カッコ良くて・沢山造る・と言う、遊びの楽しさを倍増させるキーワードに反応したグリムロック。 「分かった!、オレ、グリムロック、ホイルジャック連れて来る!」 「頼んだよ」 意気揚揚と…と言うか、突撃する勢いでホイルジャックのラボに向かって走っていったグリムロックの後姿を見送りながら、マイスターは良し良しと頷いていた。 マイスターの隣で少し不安そうなプロ―ルが言った。 「大丈夫なのか、アイツで…?」 「大丈夫さ。彼はああ見えて積極的なんだから。私の隣に居る朴念仁と違ってね」 「…朴念仁…?」 意志の疎通が出来ているのか居ないのか…、分かっていないプロールを残して、一人納得したマイスターはまた雪玉を転がし始めた。 コンピューターのモニターが灯す明かりだけの部屋。その奥に浮かぶ人影…いや、人に似た形の影。 部屋の主であるホイルジャックは、一心不乱にコンソールを叩いている。 その光景は、最早異様という他ない。 部屋のドアが開き、通路の照明が差し込む。 誰かが入ってきた事は察しているが、ホイルジャックは特に気にした風ではない。 「ホイルジャック、来い」 「グリムロックか?。我輩は忙しいんだ、お前さんと遊んどる暇は無い」 「いいから来い、皆呼んでる」 「忙しいと言っとるだろうが、用件なら話だけ聞いとくぞ」 振り返りもせずに、そっけなく話すホイルジャックに業を煮やしたグリムロックは、部屋の中へズカズカと進んでゆき、強引にホイルジャックの腕を掴んで引っ張り上げた。 「お前、いつも此処に閉じ篭る。それ良くない」 「コラ!、離さんかグリムロック!。此処で研究するのが我輩の仕事なんじゃ!、お前さんに文句言われる筋合いは無いわい!」 今では同型のボディを使っているのだが…、パワーで敵う筈もなく、ホイルジャックはズルズルと引き摺られるようにラボから連れ出されてしまう。 抵抗しようにも、話し合いで納得させるには無理な相手だと、自分が一番良く理解しているはずだが、やはり抵抗せずにはいられない。 「いい加減にせんか!、これは大事な研究なんじゃ。未来の為にも、仲間皆の命を救う為の研究なんじゃ!。分からんのかグリムロック!」 「それ言い訳。お前、逃げてるだけ」 「何…?」 そこで初めてグリムロックは動きを止めた。しかし、掴んだ腕は離さない。 「ホイルジャック、死ぬのが怖いだけ。自分が助かりたい、だからBTシステム改良している。違うか?」 「…それは…」 それは反論しようが無いほどの、図星だった。 自分はいつか起こりうる未来の惨状を目の当たりにした。 例えそれが映像だけだったとしても、必ず起こる確証はなくとも、「死」への恐怖を呼び起こすには充分だった。 仲間の為、未来の平和の為とは、建前だと。 それを、グリムロックに見抜かれ突きつけられた事が、ショックだった。 「ホイルジャック、研究大事な事、オレ分かる。でも、皆心配させる、それ良くない」 掴んだ手は離さない。振り解く事を赦さない力強さ。 「皆、死ぬの怖い。だから戦う。でもお前逃げる、此処に閉じ篭って、心まで逃げる」 「心が…逃げる?」 「自分の殻に閉じ篭る、怖くて怯えて、それから逃げる為、研究に夢中になるフリしてるだけ。違うか?」 返す言葉も無かった。全て本当の事だと、納得してしまう自分が居る。 もし他の誰かだったら、難しい論理や専門用語の羅列で話を煙に巻くことも出来ただろう。 しかし、彼は…。難しい話は通用しない。素直で単純で、しかし偽りを赦されない、純粋な残酷さ。 言葉を無くしたホイルジャックを、再び引っ張って歩き出すグリムロック。 「ホイルジャック、オレの事バカだと思ってる。でも違う。オレ、お前に沢山教えてもらった。だからもうバカじゃない」 「何を言っとる、お前さんは充分バカだよ…」 「だったらもっと教えろ。オレに教える事、ホイルジャックの役目。今までもそうだった、これからもそうだ、忘れるな」 「まったく…、お前さんが我輩に、モノを教えるようになるとはぁ…」 「オレ、グリムロック。一度死んだ、だからもう死なない。ずっと此処に居る」 暗に「ずっと傍にいろ」と、聞えなくも無い。 それは一種の「告白」と言うヤツだろうか。 いや…深読みはすまいと、ホイルジャックは眩暈がする思いで考えを打ち消した。 「オレ、グリムロック。今の身体、好きでない」 「またか…、贅沢を言うな。生き返っただけでも有り難いと思わんかい」 「この身体、パーツがぶつかって邪魔する。ホイルジャック、抱っこできない。……昔みたいに」 「なにぃいいっ!?」 ちらりと振り返ったグリムロックの顔は、バイザーとマスクで覆われて表情を読み取る事は出来ない。 しかしバイザーから透けて見えた「目」が一瞬…、笑ったように見えた。 その意図は…と、考えた瞬間、繋がれた手が気恥ずかしくなり、先程とは別な意味で振り解きたくなるホイルジャックだった。 「分かった分かった!、遊んでやるからこの手を離さんかいーっ///!」 「まったく、皆遊びに夢中になって初心を忘れるんだからぁ…うぉあああっ?!」 ――ベシャッ!―― 背後から激突されたストリークは、そのまま雪の中に突っ伏した。銀色のボディが白い雪の中に埋もれる。 「コラー―ッ!雪だるまは他所で作れって言ってるだろ!」 むっくりと起き上がったストリークは、振り返って其処に有る大きな雪玉に向かって叫んだ。 その影から、赤いボディが白い雪とのコントラストで視界に栄えるZoom-Zoomがひょっこり顔を出した。 「Zoom-Zoom、お前なぁ…。ちゃんと前を見て転がしなさい」 相手が相手では無下に怒鳴る事も出来ない。もっとも彼に対してそんな事は一度もした事は無いストリークではある。 ストリークはZoom-Zoomが差し出した手に捕まり起き上がると、そのまま手を引かれて、雪玉を指差すZoom-Zoomがにこりと笑った。 「一緒に造りたいのかい?」 コクリと頷くZoom-Zoomの笑顔は、とても楽しそうに見える。 マイスターが製作した彼のプログラムコピー機体、「レプリカオートマトン」。 人工知能が育てば、何れはトランスフォーマーの様な自我を持ち…戦う事になる。 ボディの色以外は全てマイスターと同型。それは当初、ストリークにとっては複雑な物だった。 姿も動作も、全てマイスターと面影を重ねて想ってしまう自分が居た。 そんな自分を認めたくなくて、Zoom-Zoomに近付こうとしなかった、弱い自分の心。 それが今では、すっかり「お世話係」が板につき暇さえあればZoom-Zoomの傍に居て、彼に色んな事を教えていた。 そうしている内に、自分の中で隠して来た何かが、小さく消えてゆくような気がした。 『この子の前では、嘘はつけないな…』 自分はこんなにも口数の少ないヤツだったのかと、ストリークは新たな自分を知るのだった。 再び手を引かれはっと我に帰ると、不思議そうな表情のZoom-Zoomがこちらを覗き込むように首を傾げた。 その仕草は本当に子供のようで、愛しい。 「ここを片付け終わったら、一緒に作ってあげるよ」 ストリークが優しく諭すと、Zoom-Zoomはそれに頷き、自分の身の丈ほどある雪玉を他へ転がし始めた。 すると、転がしていた雪玉を置いて、Zoom-Zoomはスコップを拾うとストリークの元へ戻ってきた。 「手伝ってくれるのか?」 スコップを持って、うん、と頷くZoom-Zoom。 ああ、そうか。ストリークは思う。 この子はこうやって成長して行くのだと。一つ一つ教えながら、そこからこの子なりの個性ができて行くのだと思うと、改めて自分の対応をおろそかに出来ないとストリークは思った。 「ありがとうZoom-Zoom」 そう言って、彼の頭を撫でた。 地球で憶えた、人間の親が子供にするように褒める時の愛情表現。 それが嬉しいのか、Zoom-Zoomはまた笑った。 その笑顔は、紛れもなく一つの人格としての、Zoom-Zoomの笑顔だった。 ――ベチャッ!!―― 「ブハァッ!?」 ストリークの顔に、真横から見事にヒットしたのは、少し固めの雪球。 その球筋の延長線には、赤・青・黄色・のカラフルな集団が雪合戦に興じている。 カラフルな一同は、「やっちゃった?」な顔でストリークを見た。 「………Zoom-Zoom、先にやる事が出来たぞ…」 ストリークは、顔に張り付いた雪を払いながら、不敵に笑う。 「あのイロモノ集団に思いっきり大きな雪球を遠慮なくぶつけてやりなさい!!」 スコップを投げ出して、ストリークとZoom-Zoomは走り出した。 ここは某国某地域に建設されたサイバトロン地球本部。通称サイバトロンシティ。 今日も彼等の活躍によって、この星の平和は守られている……筈である。 <END> 2005.12/23UP |
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