24.うるさい

ここは某国某地域に建設されたサイバトロン地球本部。通称サイバトロンシティ。
この星を巻き込んだトランスフォーマーの戦争も、早十数年を過ぎ、地球人との共同戦線の尽力の結晶とも言うべき新しい戦士たちが生まれた。
彼等の活躍によって、この星の平和は保たれている……筈である。


シティ内のリペア兼メンテナンスルーム、彼らは「ラボ」と呼んでいる一室に戦士たちは一堂に会している。
こんな所に揃ってお世話になると言う事は、理由は一つ。
「ラボ」の主であるラチェットはいつもの仏頂面を隠す事無く、リペア機材のコンソールパネルを叩く。

「そお怒るなよラチェット。これでも名誉の負傷なんだから、少しは労わって欲しいね」
「名誉の負傷だって?ランボル、君の場合は殆ど本能か趣味で自分の身体に傷を付けてないか?。オリジナル体の時だって何度私の手を煩わせたか分かってるのかい?。リペア部品の調達だってままならなかった時期にも君は遠慮無しにリペアに運ばれてきたね。有り合わせの部品で五体満足に動けたのは誰のお陰か此処ではっきり感謝の意を述べてご覧」
「ラボのお得意様」と揶揄されるランボルの空気を読まない台詞が、ラチェットの中の地雷を踏んでしまい、そして有り難い説教を受ける羽目になった。
「君の為に専用部品補充製造ラインまで完備してくれた地球の技術者やスポンサーにも君は感謝の一言でも表明したかね?、はっきり言って君達の身体は君達が思っているほど安くは無いんだよ」
「うぅ…そう言われると返す言葉も御座いません…」
ラチェットの仏頂面で淡々と吐かれる説教に、流石のランボルも身に詰まされる思いに苛まれる。
もっともそんな反省の気持は、次の出撃命令が出ればその瞬間に消えてしまう彼なのだが…。

「ランボル、君はもう少し、自分の身体に愛着を持って使うべきだと、僕は思うね」
彼の横で同じ様にリペアを受けているトラックスが、これまた空気を読まない台詞を吐いてしまう。トラックスの場合「読まない」のではなく始めから「読めない」性格なのでは有るが…、そんな事はラチェットにはこの際どうでもいい事。
「トラックスの場合、此処に来る理由が彼とはかなり違うがね。ボディのメッキが剥げたくらいで大騒ぎして駆け込んでくるのは君ぐらいだよ。だいたい傷付かないように気を使いながら戦う事に全精力を注いでいる君の戦い方は、最前線で戦う戦士としては如何な物かと思うがね、その辺の所はどう言うつもりなのか此処ではっきり明言してくれないかトラックス。それによっては今後一切のリペアを拒否するよ私は」
「うぅ…以後軽度のリペアは慎みます…」
ヤブヘビだったと後悔しても後のまつり。トラックスもラチェットから有り難い説教を受けてしまった。
それでも彼にとっては、大事な自分のボディに傷が付く事はその状態の大小に関わらずリペアの対象なのだが…。

「おい、そこのイロモノ二人!、黙ってリペア受けることも出来ないのか!。お前らの巻き添えで此処の世話になってる俺の身にもなれ!!」
「「あ、まだ居たのか?ストリーク」」
ランボルとトラックスが声を揃えてサラリと言う。
「後方支援のくせに、戦闘の真っ只中に飛び出してくるから…」
「避けようと思っても、ストリークは目立たないからつい敵と間違えがちに…」
「ぅわぁ……これ以上無い酷い仕打ちだ…」
更に二人の隣でリペアを受けていたのは、滅多にラボのお世話になりたがらないストリークが居た。
「あぁ〜あ、常連さんは気楽でいいよな。ラボの世話になる事に何の気兼ねもいらねぇんだから」

ストリークのこの台詞も、ラチェットの中にこっそり有った地雷を踏む事になる…。
「君が此処に来たがらない理由も理解しているが、気兼ねし過ぎてリペアが必要な故障を放って置く君にも、彼らとは違った問題が有ると思うが」
「ん?、どう言う事だい、そりゃ?」
「何か訳ありって事かい?」
ラチェットの意味深な言い回しに、ランボルとトラックスはリペア中の暇潰しを見つけたとばかりに食い付いた。勿論ラチェットは確信犯である。
「たいした事はしてないさ、初めての蘇生時に大暴れして此処を壊した、そうだったね?ストリーク」
「…それ以上触れるな、俺のトラウマ…」
ストリークは泣ける物なら泣いていただろう…。しかし、常日頃の行いへの制裁とばかりに今日のラチェットは鬼と化した。
「ストリークの蘇生時には俺も立ち会ったけど…、何も無かったぞ?」
BT化では2番目だったランボルは、当時を思い返して首を捻った。更に後から蘇生したトラックスには、無論何の事かは分かっていない。
ラチェットはサラっと話を続けた。
「だから初めての時だよ。ストリークはBT化1号機になるはずだった、しかし蘇生した直後に移植したパーソナルコンポーネントと素体が拒絶反応を起こしストリークは暴走。ラボを全壊した挙句に基地外へ逃亡し、駆け付けたマイスター副官とプロールによって漸く取り押さえられた。彼の心理適性を危惧した上層部の判断からBT化は一時凍結、同時期に開発中だったスモークスクリーンとランボルが繰り上がって計画を進めざる得なかった。二人の蘇生成功によってストリークの蘇生時の諸問題も何とか解決して、やっとBT化出来たと…。もっと詳しく話してあげても言いが、聞きたいかね?」
淡々と報告書でも読み上げるかのような事務的な語り口のラチェットに、流石の3人も首を横にブンブンと振った。
その様子を見て、漸く気が晴れたのかラチェットはリペア作業に専念する事にした。

「何やってんだかお前は…」
「こう言うのを地球じゃ「空いた口が塞がらない」って言うんだろうね」
「好き勝手言いやがって…、だから此処の世話にはなりたくないんだ…」
ラチェットの意識が作業に専念している事に安心した3人。話題は自然と先程の問題へと摩り替わって行った。
「BT体が完成しているのに蘇生できないって、オカシイと思ってたんだよなぁ。システムの不具合がどうこうで無くて、要するにストリークの気持の持ちようだろ?、だらしないなぁ」
「気持だけで生き返れるんだったら、誰も死なないだろうが。初めてだったんだぞ俺は!、トラブルが起きて当然の実験に志願しても居ないのに選ばれたんだぞ!自分の知らないうちにだ!。そりゃ怖いだろうが!」
「仕方ないよ、性能スペックじゃ「勇気2」なんだから」
「それは関係無いだろうトラックス!、俺が失敗したお陰でお前達が無事に事なきを得ず蘇生できたんだぞ!。俺がどんなに苦労して適性シュミレーションを乗り越えてきたか!その苦労がお前らに分かるか!!!」
「「う〜ん、イマイチ分からん」」
「バカ野郎―――!」



バンッ!!



「 う る さ い 」


―――プチンッ―――

「いい加減にしろお前らっ!!。苦労を察して欲しいのはこっちの方だ!、つべこべ言わずに黙って寝てろよっ!!」

ラチェットはキレた。
そして、3人のある回路もキラれた。
「オーディオ回路を遮断しておいた。リペアが終っても、次の出撃が掛かるまで此処で調整を兼ねてそのまま待機してもらうよ、いいね」

今度こそ本当に、黙って首を縦に振るしかない3人だった。


しかし、数日後にまた同じ部屋で同じ様な会話と顛末が起こる事は言うまでも無い…。

<END>
2005.12/15UP
BT小説も、すっかり自分妄想設定で勝手に展開しております。
この話の時間軸はトラックス蘇生直後辺り。したがってラチェットがBT化されているかいないかはあえて明記を避けました。
ストリークの蘇生時の裏話は全く持って妄想です。

※ブラウザで戻る※