5.激戦





迫り来る敵を前にして、ストリークは言った。
「おいでなすった。どうする?相手をしてやるか?」
隣に居るプロールはいたって冷静だ。
「いや、雑魚を相手にしている時間は無い。中央突破だストリーク!」
「よしっ!、トランスフォーム!」
ビークルモードにトランスフォームをし、二人は敵陣の中に飛び込んでいった。

デストロン基地内に轟く銃声と爆音。
飛び散る火の粉に、行く手を眩ます黒煙の中を突き進む二つの影。

デストロン歩兵勢がその影に向かって一斉に銃口を向ける。雨の様な弾幕を掻い潜り突き進む二人。
「プロール!俺の後ろに着け!。突破口は俺が作る!」
その時、その内の1発がプロ-ルのサイドミラーに命中した。
「うわっ!?」
「プロール?!」
「大丈夫だ!、それより先を急げっ!後方からも迫って来たぞ!」
「くそ…っ、トランスフォーム!」
ストリークはロボットモードに戻ると、銃を構え基地通路の辺り一体に乱射を始めた。
「ストリーク?!何をしてー」
「黙ってろ!」
乱射したビームは敵を蹴散らし、同時に周囲の壁や床や天井に大きな穴を開けた。
小さな爆発がやがて大きな爆発を誘発すると、炎と爆風で殆どの敵が吹き飛び、追っ手も後退していく。
その隙を突いて、ストリークは壁に空いた穴のうちの一つにプロールと共に身を隠した。


暫らくして、敵の気配が去った事を察知した二人は、張り詰めていた神経を緩めた。
ロボットモードに戻ったプロ-ルは、呆れたように言った。
「まったく…、無茶苦茶だな」
「隠れるのも戦術の内って、スモークスクリーンも言ってなかったか」
悪びれた様子も見せず、ストリークは笑った。

逃げ込んだ場所はどうやら倉庫のようだ。しかし荷物らしい物は殆ど持ち出された後だろう。
さほど広くない部屋の中、二人の声はやけに大きく響いた。

「そろそろ行くか」
「別働隊は上手くやったかなぁ?」
「オーバードライブ達が基地の反対側から進行中のはずだ」
「まったく、ランボルとトラックスがもっと派手に暴れてくれりゃ、敵をそっちに引き付けられたのによ」
「こちらに追撃隊がこない所を見ると、どうやらそっちも上手くやってる証拠だろう」

ストリークはプロ-ルの左肩を見た。
「ミラーが飛ばされただけですんで良かったよ」
「コレくらい平気だ」
「トラックスだったら、泣いて凹むんだろうなぁ」
「そうだな」
その様子を思い浮かべて、二人は笑った。

此処が敵陣の中心であるにも拘らず、その心は妙に穏やかだ。






「なぁ、プロール」
「何だ?」
「もし…、どうにもならない状態に陥ったら、俺を盾にしてでもお前は逃げるんだ」
「なっ…何を言ってるんだ!、そんな事を出来る訳が無いだろう!」
「やるんだ。お前は何があっても生き延びなくちゃならないんだ」

ストリークの表情は真剣だった。
いつもの様なお喋りの延長から出た軽口でも誇張でもない。

「絶対に死ぬな。俺が盾になってやる」
「ストリーク…お前は」

滅多に見せない、それは彼の本心。

「プロ-ルが死ねば、大事な地球人の友人まで失う事になる、それに…」
ストリークは、此処には居ない彼の人を見て、その相手を想いながら言った。
「もう二度と…、あの人を悲しませたくないからなぁ…」
「あの人?…あ」
プロールには心当たりがあった。上官でもあり相棒でもある彼の人。

プロ-ルはストリークと正面から向き合う。
「誰が死んでも、誰かが悲しむ…。犠牲になって当たり前の命なんて無い…」
そう言って彼の肩に手を掛け、諭すように言いきかせた。
「彼なら、きっとそう言うだろう。だからお前も死ぬな」
向き合ったまま、暫らく沈黙が二人を包む。

想う相手は二人とも同じだった。
しかし、その想いに宿る情の種類は違う物。



「分かってないな」
「何をだ?」
「それが分かって貰えれば、俺も心置きなく逝けるんだがな」
「またそう言うことを…。お前のBT化が一時凍結された時、彼がどれだけ悲しんだか」
「だから、それが違うんだよ」
ストリークは笑った。しかし、プロールにはそうは見えない。

誰かを想う心、それがどう違いがあるのか。
プロ―ルにはそれが理解できなかった。


遠くで一際大きな爆音が響いた。
『プロール!ストリーク!応答してくれ!、何処にいる!?』
通信機からオーバードライブの切羽詰った声が響いた。
「こちらプロール、中心エリアから2ブロック北の倉庫らしい部屋にいる。何があった?」
『北か。ラヴィッジがそちらに向かって逃亡中だ。ホイルジャック達の陽動部隊と合流して奴を包囲してくれ、我々はこのまま追撃する』
「了解」
「そろそろ大詰めって訳か」
「奴を倒せば、歴史改変は食い止められる、この戦争も終るだろう」
「そうだといいがな」
二人は先程の戦闘で瓦礫の山となった通路に出た。
所々で燻る火の手を踏み越え、通路の先を見据えた。

「ストリーク。さっきの話、忘れるな」
「お前こそ、うっかり死ぬなよ」


それぞれの想いの中で、戦いはまだ、終らない―――――。


<END>
2005.12/11UP



二人が言う「彼の人」とは、勿論マイスターの事。
ストリークはマイスターに惚れてます、勿論「そう言う意味」で。
マイスターはプロールを自分にとって「精神的な支え」として特別に想っています。
プロ―ルはそう言う心情の繋がりには気付いていません。
見事な一方通行…(切ない)。

※ブラウザで戻る※