1.楽しい


12月、北半球では季節は冬。
一年の終わりに近づき、クリスマスが迫っているそんな季節。


地球のサイバトロンシティ。
仮にも戦時下でありながらも、こういった季節の行事にはしっかり楽しむ。
今年もシティ内部の其処此処に小さなクリスマスツリーや、煌びやかな飾りが施されていた。


「おーい!そこの箱も運んでくれ」
「こっちの部屋も飾りつけするのか?」
戦いの無い時は、至って平和なもの。
こう言ったイベントで率先して行動を起こすのが、綺麗なモノが好きなトラックスと、楽しい事と喋る事が好きなストリーク。
そして、地球の文化に一番傾倒が深い、副官であるマイスター。
「一通り各部屋の飾り付けが終ったら、メインである中央ホールのツリーに取り掛かろう」
一番大きなツリーが置かれる中央ホールには、それこそ山のような荷物が運び込まれていた。
荷物の前には、飾り付け要員として駆り出されたランボルとスモークスクリーンが待っていた。

「今年もこの季節がきたか…」
「去年はグリムロックが大暴れして、危うくツリーを折るところだったよなぁ…」
基本的に楽しい事が嫌いではないサイバトロンメンバーは、少々ボヤキながらもイベントの時はしっかり乗っかる。
「しかし、人手が増えて助かったよ」
「全くだ、最初の年は俺とお前だけでコレを飾り付けたっけ」

思い出したくも無い、忌まわしい出来事。死の細菌・コズミックルスト。
仲間の殆どが被害を受けて、新たなボディで生まれ変わってから始めてのクリスマス。
「あの時は、戦時下で祭なんて不謹慎だって反対したな。今思うと、目覚めたばかりで落ち着きが無かったんだろう…」
ランボルが思い返すように言うと、スモークスクリーンも頷いた。
「目覚めて真っ先に思った事と言えば、デストロンを倒す事だけだった…」
そんな時、クリスマスパーティをしようと言い出したのはマイスターだった。
マイスターは、自分と同じ様にコズミックルストの被害から逃れた僅かな仲間と共に、サイバトロン地球基地を守っていた。
コンボイ総司令官がセイバートロン星へメガトロンを牽制する為に赴いている間は、マイスターが一人で地基地の指揮を取っていた。

おそらく、一番辛い時期を体験してきた人だろう。

「だからかなぁ」
「何がだ?」
「マイスター副官がクリスマスをやろうって言い出した訳さ」
荷物の入った箱から取り出した、金色に輝く丸い飾りを弄びながら、ランボルは当時の自分達を思い返した。

『地球では、クリスマスを祝わない方が不謹慎なんだぞ?』
『そんな事、俺たちトランスフォーマーには関係無いでしょう!』
『無くは無いさ、我々は地球で暮らしている。この星の素晴らしさを知っている。そして、この星の人達と一緒に戦っている。君のその身体も地球人の技術者が精魂込めて作り上げてくれた物だ』
『それとコレとは話が違いますよ』
『同じだよ。君は仲間のささやかな楽しみを無下にするつもりかい?』
『楽しみ?』
『そうだよ。確かに戦況は厳しい、だからこそ、例え小さな楽しみでも皆で分かち合うんだ。それが仲間の結束を深める一番の方法だと私は信じている』
『そうでしょうか…』
『それに…、忘れて欲しくないんだよ。平和を楽しめる心を…。我々はデストロンを皆殺しにするためだけに戦っている訳じゃない。戦争を終わらせる為に戦ってるんだ』
『どっちも同じ意味ですよ』
『心を忘れたら、それは只の殺し合いだ。そんな物に善も悪も存在しない。ある物は、死と、残された者の悲しみだけだよ』
『………』
『楽しい事があるから、生きたいと思うんじゃないのかな?。私はね、来年も皆と一緒にクリスマスを祝える事を楽しみにしているんだよ』

それは、初めて見せたマイスターの苦悩と、深い悲しみの傷跡だったのかもしれない。

ランボルは金色に輝く丸い飾りを箱に戻し、今度は小さな羽根の生えた人形を手に取った。
「副官は、俺たちに道を踏み外させない為に言ったんだと思うんだ」
「殺し合いに、善も悪も存在しない…か。確かにそうだな、当たり前の事だが、言われなくちゃ忘れそうになるぜ」
「仮にもサイバトロンは正義の戦士だぜ?。大事な事を忘れる所だったよ」

目の前には、大きく枝を広げたモミの木が、色とりどりの飾り付けを待ちわびている様に見える。
そこへ、手にした羽根の生えた人形を吊るした。
「なぁスモークスクリーン」
「何だ?」
「人間は死んだら、天使が魂を迎えに来るんだってさ」
枝に吊るされた人形を揺らしながら、ランボルはおどけて見せた。
「それじゃ、俺達トランスフォーマーが死んだら、どんな奴が迎えに来るんだろうな?」
「そんな事は心配無用さ!。お迎えは当分必要ないだろ?」
「それもそうだ!」
こんな楽しい仲間と過ごせる時間を、そう簡単に終らせるつもりは無い。

生きているから楽しい。

楽しいから生きて行く。

少なくとも、その心だけは絶対に忘れない。


「そう言えば、クリスマスって何を祝うんだったっけ?」
「さぁな、楽しければ何だっていいんじゃないか?」
箱の中から飾りを取り出しながら、ふと、そんな疑問が頭をよぎった。                       
<END>                                  
2005.11/24

「総司令官が〜」の下りは、解説書にもありません。るっきり自分妄想。
このネタを書く為に、バイナルの販売日時を順に調べました…。
本当はストリーク辺りに喋らせようと思ってたのに…、モスクのキャラがイマイチ掴めん。
メインはランボル、でも主役はマイスター。

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