青葉の木の下でうたたねを


さわさわ。さわさわ。

木々の葉をはぜが揺らす音と、そお遠くない所から聞える波の音。

それ以外の音の無い環境。それは無人島。

島の頂まで木々を茂らせ、その森の中で少し空の開けた場所に木に凭れた青い影。
人とはかなり異なる姿と大きさ。
その影は手元に持っている機械を時折操作する以外、特に何をするでもなく、ただそこに居た。
機械のディスプレイに映し出される文字や画像を、読んでは替え見ては替え。
暫らくして、その行為にも飽きたのか、溜息を一つこぼし空を仰いだ。

「退屈だねぇ…」

見上げた空は、自分と同じ色。

「セイバートロン星の空は、こんなに静かじゃなかったな」
青い空をゆっくりと流れる白い雲を、ただ眺めていた。



その時、目の前に黒い影が゛ドサッ゛と、文字通り降って来た。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん☆」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
呼んでねぇよスカイワープ、と、心の中で突っ込んでおく。
降って来た自分とよく似た黒い影は、木に凭れて投げ出していた足の上に馬乗りになって、得意そうな悪戯顔を見せていた。
余りに突然な状況でありながら、こんな事に妙に慣れてしまっている自分が微妙に嫌になる。
「・・・おいサンダークラッカー、リアクションしろよ」
「毎度毎度過ぎて、返す言葉もネタ切れだ」
「つまんねぇなぁ。それじゃ脅かし甲斐がないだろうよ」
「しょうもない事で能力を無駄使いするなよ、メガトロン様に叱られるぞ」
「そのメガトロン様は只今セイバートロンに帰還中、だから今はいいんだよ」
せっかくの楽しみをフイいされ、少々不貞腐れながらも反省する気は更々ないらしい。
そんなスカイワープの感心は、サンダークラッカーが手に持っている機械に移った。
「メインコンピューターの端末なんか持ち出して、何調べてたんだ?」
「別に、暇潰しにこの星の情報を見てただけだよ」
「ふ〜ん」

二人は暫らく、その端末を眺めた。

さわさわ。さわさわ。

木々の葉をはぜが揺らす音と、そお遠くない所から聞える波の音。


「・・・いい加減に降りろよ」
「何が?」
「何時まで乗っかってるんだよ!重いだろうが」
言われて気が付いたと、スカイワープはすっかり寛いで跨っていたサンダークラッカーの足の上から降りた。
「まったく・・・、ってオイ!」
やれやれと思ったのも束の間、今度は足の上に上半身を投げ出したスカイワープ。
「お前なぁ・・・」
「良いじゃねぇか、減るもんでなし」
「減らねぇけど、ボディが凹むだろうが」
スカイワープは気にする様子も無く、再び寛ぎ始めた。
言っても無駄だと、サンダークラッカーは大き目の溜息を吐き、仕方なくそのままで居る事にした。


さわさわ。さわさわ。

風で揺れる青葉が、木漏れ日の日差しを落とす。


「退屈だな」
「そうだな」
何気無しにこぼした言葉に、相槌を打つ。

「暇だな」
「そうだな」
「・・・他になんか言えよ」
他に何を答えればいいのやら、サンダークラッカーは気にせず、自分は自分の時間を寛ぐ事にする。
そもそも、スカイワープが此処に来る理由は分かっている。
「そんなに退屈で暇なら、カセットロン達と遊んでろよ」
「あんなチビどもの子守りはもう沢山だ!!」
どうやら図星のようだ。大方喧嘩をして基地の設備を壊した挙句に飛び出してきた、そんな所だろう。
そばに居れば仲裁役に借り出されるのは自分だが。それが面倒で一人で過ごせる場所を探したと言うのに。

「たまには退屈で暇なのも良いじゃないか」
「この星が嫌じゃなかったのか?、サンダークラッカー」
「そんな事も言ったなぁ」
環境の適応能力の高さは、トランスフォーマーの長所でもある。
慣れてしまえば、この起伏に飛んだ環境も楽しい物。
「飛んで見ると結構退屈しないぜ?、セイバートロン星には雲も海もないからな」
「そうかねぇ〜、俺は雲を避けて飛ぶのは面倒臭くてね」

二人が見上げた空には、雲が流れるように過ぎてゆく。

「静かだな」
「そうだな」


そのまま暫らく、黙って時を過ごした。



ふと、足元を見れば、休眠モードにシステム移行したスカイワープが、すっかり身体を預けてしまっている。
木々の枝から降り注ぐ木漏れ日が、鋼鉄の表面に反射しキラキラと煌いていた。

退屈で暇なこの星で過ごすのも悪くない。見たことも無い物が沢山見れる事は、素直に興味がわく。
傍らで眠る相棒が五月蝿いうちは、自分には退屈も暇も無いのだろうが。
「まったく…、世話のやける奴」
この戦争の大儀とか、戦う事の意味とか、信じる物が無いわけではないが、こうして自分を引き留める相手が居る内は戦おう。


太陽光線の温度と、海から吹く適度な湿度を含んだ風。
機械の身体にそれ程不快ではない環境と、足に掛かる重みに安心して休眠モードに入る。

眠りに落ちる間際、頭上に大きな鳥の影が旋回しているのが見えた。
基地に帰ったら冷やかされる格好のネタだなと、苦笑いしながらも、そのまま黙って意識を切った。


<END>
2005.10/31UP

突っ込んだ妄想設定では、サンクラの方が年上です。スカワはひょっとするとスタスクよりお子様かもしれませんが、如何でしょうか?。

要はサンクラに甘えるスカワを書きたかったと(どの辺が?と、察して知るべし)。
ラストシーンの鳥の影は言うまでも無くコンドルです。子供の喧嘩をフォローする親心。
サンクラの予想通り、帰ったら子供の喧嘩が再戦されます。