◆青葉の木の下でうたたねを◆ さわさわ。さわさわ。 木々の葉をはぜが揺らす音と、そお遠くない所から聞える波の音。 それ以外の音の無い環境。それは無人島。 島の頂まで木々を茂らせ、その森の中で少し空の開けた場所に木に凭れた青い影。 人とはかなり異なる姿と大きさ。 その影は手元に持っている機械を時折操作する以外、特に何をするでもなく、ただそこに居た。 機械のディスプレイに映し出される文字や画像を、読んでは替え見ては替え。 暫らくして、その行為にも飽きたのか、溜息を一つこぼし空を仰いだ。 「退屈だねぇ…」 見上げた空は、自分と同じ色。 「セイバートロン星の空は、こんなに静かじゃなかったな」 青い空をゆっくりと流れる白い雲を、ただ眺めていた。 その時、目の前に黒い影が゛ドサッ゛と、文字通り降って来た。 「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん☆」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 呼んでねぇよスカイワープ、と、心の中で突っ込んでおく。 降って来た自分とよく似た黒い影は、木に凭れて投げ出していた足の上に馬乗りになって、得意そうな悪戯顔を見せていた。 余りに突然な状況でありながら、こんな事に妙に慣れてしまっている自分が微妙に嫌になる。 「・・・おいサンダークラッカー、リアクションしろよ」 「毎度毎度過ぎて、返す言葉もネタ切れだ」 「つまんねぇなぁ。それじゃ脅かし甲斐がないだろうよ」 「しょうもない事で能力を無駄使いするなよ、メガトロン様に叱られるぞ」 「そのメガトロン様は只今セイバートロンに帰還中、だから今はいいんだよ」 せっかくの楽しみをフイいされ、少々不貞腐れながらも反省する気は更々ないらしい。 そんなスカイワープの感心は、サンダークラッカーが手に持っている機械に移った。 「メインコンピューターの端末なんか持ち出して、何調べてたんだ?」 「別に、暇潰しにこの星の情報を見てただけだよ」 「ふ〜ん」 二人は暫らく、その端末を眺めた。 さわさわ。さわさわ。 木々の葉をはぜが揺らす音と、そお遠くない所から聞える波の音。 「・・・いい加減に降りろよ」 「何が?」 「何時まで乗っかってるんだよ!重いだろうが」 言われて気が付いたと、スカイワープはすっかり寛いで跨っていたサンダークラッカーの足の上から降りた。 「まったく・・・、ってオイ!」 やれやれと思ったのも束の間、今度は足の上に上半身を投げ出したスカイワープ。 「お前なぁ・・・」 「良いじゃねぇか、減るもんでなし」 「減らねぇけど、ボディが凹むだろうが」 スカイワープは気にする様子も無く、再び寛ぎ始めた。 言っても無駄だと、サンダークラッカーは大き目の溜息を吐き、仕方なくそのままで居る事にした。 さわさわ。さわさわ。 風で揺れる青葉が、木漏れ日の日差しを落とす。 「退屈だな」 「そうだな」 何気無しにこぼした言葉に、相槌を打つ。 「暇だな」 「そうだな」 「・・・他になんか言えよ」 他に何を答えればいいのやら、サンダークラッカーは気にせず、自分は自分の時間を寛ぐ事にする。 そもそも、スカイワープが此処に来る理由は分かっている。 「そんなに退屈で暇なら、カセットロン達と遊んでろよ」 「あんなチビどもの子守りはもう沢山だ!!」 どうやら図星のようだ。大方喧嘩をして基地の設備を壊した挙句に飛び出してきた、そんな所だろう。 そばに居れば仲裁役に借り出されるのは自分だが。それが面倒で一人で過ごせる場所を探したと言うのに。 「たまには退屈で暇なのも良いじゃないか」 「この星が嫌じゃなかったのか?、サンダークラッカー」 「そんな事も言ったなぁ」 環境の適応能力の高さは、トランスフォーマーの長所でもある。 慣れてしまえば、この起伏に飛んだ環境も楽しい物。 「飛んで見ると結構退屈しないぜ?、セイバートロン星には雲も海もないからな」 「そうかねぇ〜、俺は雲を避けて飛ぶのは面倒臭くてね」 二人が見上げた空には、雲が流れるように過ぎてゆく。 「静かだな」 「そうだな」 そのまま暫らく、黙って時を過ごした。 ふと、足元を見れば、休眠モードにシステム移行したスカイワープが、すっかり身体を預けてしまっている。 木々の枝から降り注ぐ木漏れ日が、鋼鉄の表面に反射しキラキラと煌いていた。 退屈で暇なこの星で過ごすのも悪くない。見たことも無い物が沢山見れる事は、素直に興味がわく。 傍らで眠る相棒が五月蝿いうちは、自分には退屈も暇も無いのだろうが。 「まったく…、世話のやける奴」 この戦争の大儀とか、戦う事の意味とか、信じる物が無いわけではないが、こうして自分を引き留める相手が居る内は戦おう。 太陽光線の温度と、海から吹く適度な湿度を含んだ風。 機械の身体にそれ程不快ではない環境と、足に掛かる重みに安心して休眠モードに入る。 眠りに落ちる間際、頭上に大きな鳥の影が旋回しているのが見えた。 基地に帰ったら冷やかされる格好のネタだなと、苦笑いしながらも、そのまま黙って意識を切った。 <END> 2005.10/31UP |
突っ込んだ妄想設定では、サンクラの方が年上です。スカワはひょっとするとスタスクよりお子様かもしれませんが、如何でしょうか?。 要はサンクラに甘えるスカワを書きたかったと(どの辺が?と、察して知るべし)。 ラストシーンの鳥の影は言うまでも無くコンドルです。子供の喧嘩をフォローする親心。 サンクラの予想通り、帰ったら子供の喧嘩が再戦されます。 |