「明日、もし君が壊れても
」/TFお題「20.潜む」より

遠くで聞こえる、戦いの喧騒。
今、立って居る場所が、かつてどんな場所だったのか?、今はもう面影を忍ばせるだけ。
その中を、あいつを探して歩く。

瓦礫の丘を踏みしめ、歩く先に立つ、人影。

嗚呼…。

今日も、アイツは生きている。
誰かを殺して、生きている。
自分を壊して、生きている。

ジャリ。
踏み締めた地面が、音を立てる。
まるで、この大地さえ悲鳴を上げているように、足元から伝わる。

歩く途中に転がる幾つもの『成れの果て』を避けながら、アイツの傍に立つ。

足元には、最期に殺しただろう『成れの果て』が転がっている。
それを見つめながら、アイツは静かに立っていた。

「今日は、何人殺った?」
我なが、酷い言い様だと思う。だがコレが現実。
でもアイツは、気にした風でもなく、事も無げに言う。
「さぁ?。この前の戦闘の時よりは少ない、かも。でも、もしかすると味方も少し混じってるかもしれないな」
「射撃の腕がいいのも、考え物か」
「外れないんだよ、俺の弾道って」

命というモノが、時にこれ程気薄なモノなのだと、そう感じる事に抵抗が無くなった。
それだけの時間を、この戦場で過ごしてしまっている俺達。

殺して。
壊して。

生きる事よりも。
死ぬ事よりも。

恐れるものが、有ると言う。


アイツの心を侵食してゆく、恐怖。

目の前に居る姿は、いつもの、昔のままで。
殺した相手の返り血なのか、汚れた姿で。
それでも其処に浮かべる表情は、昔のままで。
「じゃ、戻ろっか?」
なんて、血塗られた笑顔で言う。
「…そうだな」
俺は、昔のままの顔で、言えただろうか?。



不意に、背後から微かな音がした。
瓦礫の影に一瞬動いた影。

俺が気付いた瞬間、銃声が響く。
影が人の姿から、只の『成れの果て』と変わった瞬間。
敵がまだ残っていた?。
何が起きたか、直には把握できなかった。

視線を隣に立つアイツに向ける。
何も変わらない、動いた気配すらない。

ただ、銃を握っていた右手だけが、動いていた。
背後に向けた銃口を、静かに下ろす。

まるで武器を持つ右腕だけが、意思を持つように動く。
アイツは意識していないのだろう。

「言っただろ?、『外れない』って」
ふわりと、笑う。何て穏やかな笑顔。
しかしその裏で、どうしようもない恐怖と悲しみが渦巻いている事を、俺は知っている。

「外しても良いんだぞ、たまには」
「そうだな、何時か、お前も殺してしまうかもしれないかもな」
冗談のように言う。
だが、それは本心。

アイツは、振り返ることも無く歩き出した。
俺も、その後を歩き出した。



「俺は、多分…本当に殺してしまうかもしれない」
隣を歩きながら、アイツは言う。
「俺…このまま、変わってしまう気がするんだ」
「何に変わるって言うんだ?」
「分からない、俺の知らない、得体の知れない何かに…」

「自分ですら知らないモノに、成れるわけが無いだろう」
「ああ、それもそうか」



殺して。
壊して。

「でも…、もし本当に、俺が変わってしまったら、俺を殺してくれないか?」
「俺が、か?」
「そう、お前が」

生きる事よりも。
死ぬ事よりも。

「俺が、大切な人を殺してしまう前に…」
「大切な人に、殺されたい…って事か?」

恐れるものが、有ると言う。

「うん、そう。お前にしか頼めないからさ…」
「確かに、副官やプロールには、無理な頼みだな」

アイツの心を侵食してゆく、恐怖。


「その時が来ないように、俺も努力するけどさ」
「当たり前だ馬鹿。頼むのは構わないが、当てにするな」

「馬鹿って、酷いなぁ」
少し残念そうに苦笑いをするアイツに、言い知れぬ想いが俺の心を押し潰す。

守ることも、救う事にも限界は、ある。
俺に出来る事は、アイツの願いを聞いてやる事。

歩みを止め、戦いで汚れたアイツの身体に、俺は腕を回す。
きつく抱き寄せると、俺の肩口に頭を預けるアイツの髪から、硝煙の匂いがした。

「ゴメン、な…スモーキー」
「謝るな…」
「うん…、ゴメン」

謝るくらいなら、あんな残酷な事は言うな。
昔のままの、笑顔で。
昔には戻れない、想いを孕ませて。

狂気と絶望を潜ませた、切なく愛しい心ごと、アイツを抱きしめる。
恐怖と悲しみを紡ぐ、穢れたアイツの唇を、俺のソレで塞ぐ。
今はもう、これ以上残酷な言葉を零さぬ様に、深く口付ける。

何時か、その時が来るのならば。
「俺の愛で、お前を殺してやるよ」



2007.12/18 UP



…orz。

一人称文章って意外と難しい、です。キャラによるでしょうけど。
久し振りのTFネタはスモスク不憫な彼の過去捏造ネタ。

命というより、「死」を預けられる関係、スモスクと不憫な彼。
それも、愛、です。

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